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共和党と民主党の駆け引き 政争の具

アメリカの移民問題

―とはいうものの、そもそもアメリカ合衆国は移民によって成り立っている多民族国家です。

日本で暮らす単一民族といっていい私たち日本人にとって「メキシコとの国境の壁建設」に象徴される「不法移民問題」は、当事者の立場で考えることがなかなか出来ません。

私たちはアメリカに内在する、「白人」に対する「黒人と黄色人種」という構図はわかっていますが、実際にアメリカで少し暮らしてみると、「ヒスパニック」であるか「非ヒスパニック」であるか、という心の壁が存在していることに気付かされます。

ヒスパニックとは「スペイン系。スペイン語を話す人」という意味です。

アメリカの生い立ち

かつてのアメリカ大陸は、イギリス、フランス、スペインなどヨーロッパ諸国の植民地でした。

といっても、インディアンに代表されるアメリカ大陸の先住民は、入植してきたヨーロッパ諸国の人たちに征服されてしまっていたので、植民地であることを理由に搾取されていた人たちは先住民ではなくて入植してきた人たちでした。

いうなればかつての同僚に貢ぐようなものだったので、だんだんと対立が深まっていきました。

1775年にイギリスとの間でアメリカ独立戦争。
1776年に独立宣言。
フランスと同盟関係を締結して
1783年にパリ条約が結ばれて「アメリカ合衆国」として正式に独立しました。

日本史では江戸時代の後期。15代続いた徳川家では第10代徳川家治将軍の時。
今から235年前のこと。

建国当時からある「非ヒスパニック系」と「ヒスパニック系」の軋轢

そのような経緯でアメリカ合衆国は独立を果たしましたが、ヨーロッパ諸国の植民地であったので、建国当時からさまざまな出身国をもつ人たちで構成されていました。

しかしその多くの出身国は、イギリスを中心とした白人でした。

アメリカ合衆国として独立したといっても、それは現在のアメリカでいう東部のことです。

ヒスパニックといわれるスペイン系の人たちは、現在の西部と南部にその多くが入植していました。

その後東部で独立した人たちは、武力を行使しながら現在のカリフォルニア州に代表される西海岸に向かいます。

その経過の中でヒスパニックの人たちは退去か残留を迫られて、現在アメリカ在住のヒスパニック系と言われる人たちは、その時に残留を決断した人たちが起源です。

ヒスパニック系の人口増加

20世紀初頭では、ヒスパニック系の人口は50万人。人口比率でいうと約0.7%。

ところが2010年には5000万人を突破して、カリフォルニア州やテキサス州では人口の3分の1以上がヒスパニック系で占めていることがわかりました。

アメリカの人口調査は10年に一回で、次回は2020年になるので、現在のアメリカ合衆国全体の人口は3億2千万人くらいと推定されるそうですが、2040年にはヒスパニック系の人口が不法移民を加えると1億人を軽く突破すると予想されています。

アメリカ政府はそのこと自体を問題にしている訳ではなくて、ヒスパニック系人口の6割を占める「メキシコ人」を頼って、夜陰に紛れて不法に国境を越えてメキシコから流入してくる人たちを、とくにトランプ大統領は問題視しているのです。

その不法移民の数は、1000万人とも2000万人ともいわれています。

その人たちは所得税など払いません。

払うとしても、各州や群、市が独自に課税する売上税くらいです。

一説によると、売上税がアメリカで一番高いカリフォルニア州ロサンゼルス市の9.75%は、不法移民から彼らが生活しているインフラ整備の財源としての徴収が目的といわれています。

でも生鮮食品や処方薬は、減免しているからあまり効果がないみたい。

ちなみにオレゴン州やモンタナ州の売上税は0%です。

ヒスパニック系の人たちの「メキシコとの国境の壁建設」賛成

そこで「メキシコとの国境の壁建設」の話となります。

日本では報道されませんでしたが、「長い間、アメリカで暮らしているヒスパニック系の人たちは、メキシコとの国境の壁建設に賛成している人が65%以上」という調査結果をロサンゼルス市にあるケーブルテレビ局が昨年公表しました。

その理由は、「英語を話さないスペイン語だけで会話をしている不法移民が群衆化してきていることに恐怖を感じる」というものでした。

外国の人が日本語を話してくれると親近感がわいたりするじゃないですか。

アメリカの西部と南部では、今ではその逆の恐怖感が静かに押し寄せてきているというのです。

「移民保護条項」と「メキシコとの国境の壁建設」の混同

今回、アメリカ政府機関の一部閉鎖問題で、民主党は移民保護条項をつなぎ予算案へ盛り込めといい、上院で過半数を取れない共和党はつなぎ予算が可決されたら移民問題を協議するという立場を崩していません。

このつなぎ予算案の取引の材料とされている「移民保護条項」の争点は、子供時代に不法移民の親に連れられてきた若者「ドリーマー」を強制送還の対象から外す措置を「DACA」といいますが、それを民主党は「無条件に」といい、トランプ大統領と共和党は「ちゃんと申請したらね」と主張しています。

更に民主党はヒスパニック系の有権者の増大と民主党の党員の拡大を狙って「アメリカ国籍も与えよう」と民主党の寛容さをアピールして、アメリカの出生地主義を否定するようなことも言っています。

そのことを「移民保護条項」という文言を使って、民主党の「正義」を見せかけているのが、今回の特徴です。

トランプ大統領による「メキシコとの国境の壁建設」のための予算要求が「移民保護条項」という移民問題にすり替えられて、アメリカ政府の一部機関の閉鎖という「政治ショー」、「政争の具」になっていることが、混乱に拍車をかけていることを理解して今後の展開を見守る必要があると思っています。

最後にローター通信が、今回の米政府機関の一部閉鎖について、中国の新華社による「米国の慢性的欠陥」との論評を報じたその意図に興味がわきました。