告別式

先週の水曜日のこと。一通のメールが届いていました。
以前お世話になっていた会社の上司が心不全で亡くなったとの悲報。
今日がその方の告別式でした。

昨年のクリスマスの日

心を許していた先輩にカミングアウトして、それがいつの間にか社内の噂になってからというもの、少しずつ私の回りから人がいなくなって、会社に居づらくなって、結果的には今年の春に会社を辞めて、ひとりで生きていく決意をして今にいたっています。

会社勤めの頃は背広でネクタイなのでどこから見ても男だったのですが、外見と内面が違うことが社内に知られると私は単なる興味対象でしかなくなりました。

男が好きなのか?
今日も下着は女物か?
トイレはどっちに入るのか?

などと昼食で出かけた食堂で知らない人から聞かれたこともありました。

私が先輩に告白した当時は、性同一性障害であることを隠していることに罪の意識を感じるようになっていました。

ですから、今思えば聞かされる先輩の気持ちも考えずに話したこと自体が自分本位であったと反省しています。

しかしカミングアウトしたことで、仕事や人間関係など失ったものもたくさんありましたが、その代わりに今は自由を手にしている訳ですから後悔はしていません。

退職の日のはなむけの言葉

今日が告別式の元上司は、私が退職届を出した時に
「隠したいことがあったら最後までそれを貫くべきだった。世間なんてきれい事で済まされるほど単純じゃないよ。」

「逃げるは恥だが役に立つ。―今の環境から逃げることは恥かも知れないが、別の場所に移ることで君の人生が人様の役に立つこともあるから。」

と私の第二の人生を後押ししてくださいました。

また逃げた私

午後1時からの告別式に間に合うように家を出ました。

澄み切った青空を背景に江ノ島が大きく見えました。

早めに着いた海岸から少し離れたところにある斎場の駐車場に車を止めて外を見ていたら、何本も立っている大きな花輪の前を歩くかつての先輩の姿が目に入りました。

すると突然心臓の鼓動が高鳴って、私は反射的にハンドルに顔を隠していました。

そして気付かれなかったかな、と思いながらエンジンをかけて斎場から逃げ出していました。

気が付いたら車は西へ進む帰路

今日は風がとても強く吹いていました。
国道134号線に設置されている電光掲示板には大きく「強風警報発令」とドライバーに注意を促していました。

江ノ島を左に見て茅ヶ崎に向かうと、しばらくは海が見えないほど長い防砂林が続いていますが、それを物ともせず道路には砂吹雪が舞っていました。

そんな中、短パン半袖の上にカッパを着て、花粉症対策で使うゴーグルを手で押さえながら走っている人を見かけました。
風によろけながら、顔に当たる砂に顔をゆがめていました。

私は、何もこんな日に走ることもないだろうに、と思いました。
しかし、この人は何かに向かっているようでした。
おそらく今日のゴールの先にある何かに。

今日もまた逃げて帰る私は、砂がフロントガラスをバチバチと叩きつける音を聞きながら、
自分はいったいどこに向かって走ればいいのか、と悲しくなりました。

告別式でお別れを言えなかった元上司は、逃げているままの私をどう思っているのか聞いてみたいと思いました。