NHK総合テレビ・ドラマ10で「女子的生活」というドラマが始まりました。
主人公の<みき>は、ファストファッション会社で働くOLだけど、実は男性。
恋愛対象は女性という私みたいなトランスジェンダー。
そんな<彼女>を理解して一緒に合コンに参加するなど普通に接してくれる同僚たちに恵まれて、彼女は「女子的生活」を満喫しています。
そのような設定の中で繰り広げられる<出来事>を、<彼女>として養われた感覚を、<男>としての感性からも鑑賞できるとっても素敵な作品です。
私と比較して
彼女は地元を離れて都会の暮らしの中で、自分を社会に溶け込ませることに成功していますが、私は都会に埋没出来なくなって山の中に引きこもりました。
ドラマの中であっても、彼女は幸せだなぁと思いました。
それは、周囲の人たちが、トランスジェンダーである彼女を受け入れていること。
彼女は前向きで明るいけど、私は性格がよくないのか、先輩だけにカミングアウトしたつもりがいつの間にか社内中に広まって、みんなから変態扱いされました。
それで今では、山の中に引きこもって私なりの「女子的生活」を送っています。
私が引きこもりを決意した理由
私が引きこもった一番の理由は、どうあがいても以前のようにキレイになれなくなったこと。
もうアラフォー…。
手の甲に年齢が表れるようになりました。
顔はお化粧でなんとかなるけど、化粧をしない手は年齢と性別がはっきりしてきます。
産毛を処理してハンドクリームを塗って手袋をして寝ても、翌朝にはため息…。
初回の「女子的生活」の最後に、主人公の<みき>が年齢を重ねていった時の不安を独白していましたが、まさにその通りです。
私にとって「女子的生活」をする上で一番大切なことはキレイであることなのですが、それがいつか出来なくなって自分自身に失望したらどう生きていけばいいのか、と未来が見えなくなる不安に私も支配されています。
初回の「女子的生活」の面白さ
トランスジェンダーである彼女の目線で女子像を表現していたことでした。
🔷洗面台に並ぶたくさんの化粧品。
シューズボックスに並ぶさまざまな靴。
クローゼットに掛けられた洋服の数々。
男の数倍は自分の身の回りにお金がかかります。
→そうです。女子はお金が掛かるんです。
🔷ドラマで描かれていた合コンでの女子同士の軋轢。
女子は女子に厳しいと思います。
20代の頃に、市が主催していた着物のリサイクルの会に参加していたことがありました。
私は身長が160cmくらいなので、すんなり女子として溶け込めていた時がありましたけど、とにかく女子のチェックは厳しかった。
ニッセンで買った服はすぐにバレました。
新しいものを身に付けて行ったら、ほめながらけなされました。
男の視線を浴びようものなら、容赦なく嫌みを言われました。
「キレイね」を本気で受け取ると、陰で「ブスのくせに」と言われていました。
→男の世界より女子同士の人間関係は複雑です。
🔷NHKとしては冒険したと思うラブホテルでの情事。
その頃の私には、私が男であることを理解してくれた上で付き合っていた彼女がいました。
彼女と一緒にいると、自分はやっぱり男なんだと何度も思い知らされました。
男と女の決定的な違いを感じたのは、そのときに女子は男と違って性を処理するという感覚はなくて、身体全体で性を感じようとしていることでした。
男にはそれがない。それが出来ません。
彼女は、私を女子として扱ってくれていたから男に対する遠慮みたいなものはありませんでした。
だからそのときの彼女は、心も体も妖精になりきっていました。
結局私は感性までは女になれない、と自分に失望したことを覚えています。
→もしかすると女子は男よりも性に対して貪欲なのかも知れません。
私にとって性とはなんだろう
今回のドラマの中で「トランスジェンダーである自分にとっての付き合い方は、割り切ることでしかない」というようなセリフがありました。
私がとことん性転換手術をして女性の身体になれたとしても、赤ちゃんを宿すことは出来ないので、どこまでいっても「エセ女子」から外れることはありません。
主人公の<みき>も自分が男であることを自覚していながら、それでも「女子的生活」を続ける限り、すべてが刹那的な願望に過ぎないと言っているように私には思えました。
男の人たちは私がトランスジェンダーであるとわかると、私に奉仕を求めたがるけれど、私はそんなことをしたいために、自分の性に向き合っているわけではありません。
でも私が他人に必要とされるのはその程度のことなのかなと思って、もう死にたいな、と思ったことが何度もありました。
男が女に求めているものと、女が男に求めていることの違いに、精神的な性別が存在しているのでしょうか。
今ではそんなことを考えながら生きています。
次回の「女子的生活」は1月12日(金)の午後10時から
このドラマは、トランスジェンダーを社会派的に扱っているわけではなくて、主人公の<みき>が女子の視点から、女子として生きる大変さや孤独感を魅せてくれます。
私みたいな者がいうのはおこがましいのですが…
脚本家の坂口理子さんは、細部にいたるまで丁寧に<彼女>と「女子的生活」を描かれています。
トランスジェンダー指導の西原さつきさんは、私のようなトランスジェンダーの心の中にまで愛情を注いでくれているように感じます。
ヒロインの志尊淳さんの熱演には最初から最後まで引き込まれるし、町田啓太さんの「華」がドラマ全体を支えています。
玉井詩織さんと玄理さんは、内面のとらえ方が難しい「トランスジェンダー」をしっかりと押さえながらヒロインと絡んでいます。名演です。
小芝風花さんの「女子」らしさは、精彩を放っているとしかいいようがありません。
そしてベテランの羽場裕一さんの存在があってこそ「女子的生活」の舞台が完成されています。
次回がとっても楽しみです。
天野愛菜